Giro d'Italia2018 ~ロードレースを初めて見る人が知っておきたい名勝負~

2018年のジロ、この年のSimon Yatesは強かった。初日の得意とは言えないTTで当時世界王者のTom Dumoulinからわずか20秒の遅れに抑え、TTが得意なChris Froomeに対して17秒の差をつけた。激しいアップダウンからの登りスプリントとなった第4ステージでは4位、この日20秒遅れたFroomeを中心とするライバル達にまた差をつけた。

そして第6ステージのエトナ山頂ゴール

1時間にわたるアタック合戦の末、SimonはEsteban ChavesとJack Haigという強力なチームメイト達と共に28人の逃げ集団に入る。エトナの登りで繰り広げられる精鋭達の殴り合いの中Chavesが抜け出す。追いついてきた総合勢と合流した30秒後方の集団から今度はSimonがアタック...誰も付けない、それを見てさらに加速したSimonは残り500mでChavesと合流。Simonはライバル達から少なくないリードを築いて最強の証マリアローザに袖を通し、Chavesも区間優勝と山岳賞ジャージマリアアッズーラを獲得して総合3位。Mitchelton-Scottチームの完璧な勝利だった。

Embed from Getty Images

休息日前の第9ステージでも強さを見せたSimon。FroomeとAruが遅れた1級グランサッソの小集団スプリントを制して区間1勝目、またもリードを拡大しChavesも総合2位に浮上。チームにとっても彼にとっても最高の形で第一週目が幕を閉じた。

その勢いは翌週も止まらない、最大勾配16%の「壁」が登場する第11ステージでもライバル達を寄せ付けず区間2勝目。Chavesが前日に遅れて総合争いから脱落したことなどもはや誰も気にしない。スプリントステージを挟んで第14ステージ泣く子も黙る激坂ゾンコラン、今大会良い所の無かったFroomeが復活の兆しを見せる勝利。Simon本人はステージを逃したことを悔しがるがステージは2位、総合で3分以上差をつける”元総合優勝候補”から6秒遅れただけだ。むしろ他のライバルに対して10秒単位で差を広げた。

翌日は悪天候のドロミテ山塊。またも独走するSimonは2位集団のDumoulin達に41秒差で区間3勝目、ハットトリックを決める。復調したかに見えたFroomeは1分30秒も遅れてしまう。総合2位のDumoulinですら2分11秒差、山岳賞でも2位Giulio Cicconeと39pt差の首位。天変地異でも起こらなければ総合優勝間違いなしだろう。

第16ステージは本来であればSimonにとって試練であるはずの個人TT。Dumoulinに1分15秒取り返されたとはいえそれでも56秒のリードがある、もうTTは無いしそもそもDumoulinは山岳で大きく差をつけるタイプではない。

第17ステージを無難にこなしたSimonだったが、第18ステージで雲行きが怪しくなる。28秒を失ったのだ、これでDumoulinと28秒差。しかも翌日は大会最高の山チーマコッピを含む今日より厳しいステージ、もう安泰ではない。天変地異などなくても逆転は起きる、Dumoulinの大会連覇はすぐそこに感じられた。

予想に反して、ステージ中盤のチーマコッピ フィネストレで天変地異は起きた。それを起こしたのは28秒差のDumoulinではない、2分43秒差のDomenico Pozzovivoですらない。1週間前”元総合優勝候補”に過ぎなかったあの男、Team SkyのCristopher Froomeだ。2010年代最高のグランツールライダーはフィネストレでチームと共に攻撃を仕掛けた、そこまで驚くべき展開ではないだろう。明らかに不調なマリアローザを引きずり下ろせば表彰台に手が届く、それだけでなく上手く行けば他のライバルも脱落するかもしれない。山岳最強のTeam Skyだから出来る、ある意味当然の作戦だと思われた。

しかしこの男のスケールは我々の想像を超えていた、3位Pozzovivoが遅れ始めた残り80kmでアシストを使い切り独走開始。あまりに常識を外れた行動にDumoulin達は反応できない。だがDumoulinはFroomeに2分54秒のリードを持っている、周りと協力して追いかければ逆転される可能性はそれほどないはず。いくらFroomeがTT巧者とはいえ相手は単独な上にDumoulinはTT世界王者なのだから。

ところがここで問題が発生する、この時点でDumoulinの集団に残っていたのは5位Tibaut Pinot 6位Miguel Angel Lopes 9位Richard Carapazと4位Froomeより下位の選手ばかり。そう、彼らにとってはFroomeとの差が大きかろうが小さかろうが自分の順位に影響がないのだ。後ろを引き離せば表彰台も見えるPinotと追いついてきたそのアシストReichenbachは協力してくれるが他の2人は先頭交代を拒否、集団のペースは上がらない。ただ全力を出すだけのFroomeは最終的にDumoulinに対してボーナスタイム含めて3分36秒の差を付け、40秒差で総合首位に立った。さらにこの日だけで山岳ポイントを大きく加算したFroomeは山岳賞も首位。つい数日前まで大会の主役だったはずのSimonはこの日38分51秒と大きく遅れ79位でゴール、総合順位を18位まで下げてしまった。

第20ステージも1級山岳3つの難関ステージだがTeam Skyは無事エースのジャージを守り切った。レースはSimonの同僚Mitchelton-ScottのMikel Nieveが制し、チームとして5つ目の勝利となった。前日にDumoulinに協力して順位を3位に上げていたPinotはこの日大失速、最終日を走らないことを決めた。

最終第21ステージが終わり、Froomeの総合優勝が確定。近年最もスリリングなグランツールは幕を閉じた。

グランツールにおいて、セーフティリードなど無いと強く印象付ける大会だった。

 Embed from Getty Images

宮本監督解任...  負の連鎖が終わるのはいつになるのか

Embed from Getty Images

現時点で18位と降格権に沈むG大阪が宮本監督との契約解除を発表した。

 

宮本恒靖監督は現在44歳。U17からA代表まで全世代でキャプテンを務め、Aマッチ71キャップを誇る正真正銘日本のレジェンド。クラブ初のリーグ優勝時のキャプテンであり、サポーターからの人気も高い。

ユースとU23を経て18年レヴィクルピ解任に伴いトップチーム監督に就任、16位に沈んでいたチームを9連勝含む10勝3分4敗と立て直し9位での残留に導き、19年7位 20年2位と若手監督としては十分な結果を残していた。

今シーズンは序盤でチーム内クラスターが発生した影響もあり消化試合数は少ないものの、未消化分を3ptで計算しても首位川崎と17pt 2位名古屋と7ptの差があり優勝やACL圏内は絶望的。

攻守に渡り戦術が見えず、交代策もワンパターンと勝てる要素が見つからないような試合が続いている。もちろん前述したクラスターの影響も考慮しなければならない。しかし昨年までも厳しい言い方をすれば選手が良いから勝っているという試合も少なくなかったように感じるし、このまま続けたところで川崎や名古屋との名古屋との差が縮まる見込みは薄いだろう。

 

しかしだ、根本的責任は本人のものではない。今Jを席巻しているフロンターレの鬼木監督を見てみると、名将風間八宏の下5年間しっかりと「研修」した上で満を持して前年度3位のチームを引き継いでいる。本人の意図しないタイミングで降格圏のチームを引き継いだ宮本とは大違いである。

これで宮本恒靖のキャリアに傷がついた、ガンバがレジェンドのキャリアを傷つけるのは二度目だ。2012年の降格時には今回暫定で指揮を取る松波正信も憂き目にあっている。黄金期をもたらした監督の後任選びを間違えてという流れも同じだ。

そしてこれはまた繰り返される可能性がある。Covid19の影響で外国人監督招聘も簡単ではないだろうが、手頃な人気OBでサポーターのご機嫌を取る人事では何も解決しない。目先のことだけではなく10年20年未来を見据えたプランがあるのか、G大阪の決断には注目だ。